DS-WT
(自動試作機)

熱可塑性フィルムを用いた乾式コーティング技術

従来の錠剤コーティング概念からの脱却を可能にする装置の開発

自動試作機 DS-WT

自動連続製造装置 DS-WT2

開発に至ったきっかけ

 現在、多くの錠剤にはフィルムコートや糖衣などのコーティングが施されています。それらは錠剤の外観、安定性、機能性の向上に欠かせないものですが、錠剤製造工程において時間的、労働負荷的に大きな比重を占めていることも否めません。
 今般開発されたラッピング製剤製造装置は、従来の錠剤コーティング概念から完全に脱却し、圧縮成形された粉末を熱可塑性高分子フィルムで包み込み製造する、新しいコンセプトの乾式コーティング装置です。その用途は、工程や製品開発期間の短縮のみならず、フィルム特性に付加価値を加えることができるため、単なるコーティングに限らない、広範囲な展開が可能です。
 この斬新なアイデアを現実化するためには、フィルムや固形製剤の専門的な知見と機器メーカーとの協同開発が不可欠です。本機は次世代の固形製剤製造技術開発をテーマに、国内大手製薬メーカーである第一三共株式会社 製剤技術研究所様のご発案のもと、弊社がその機器を具現化したものです。機器形式は発案者であるDaiichi Sankyo と Wrapping Tablet に基づいてDS-WTと命名されています。

ラッピング製剤について

 既存の技術であるフィルムコーティングはその優れた安定性と信頼性で広く普及していますが、コーティングパン内で錠剤を転動させ、コーティング液をスプレーして製造する特性上、錠剤の割れ欠けなど製造工程に耐えうるデザインが必須になります。また、乾燥能力やスプレー条件の最適化など、製造プロセスの頑健性を示すために詳細な検討も必要になってきます。ラッピング製剤は製剤設計の簡素化、製造プロセス検討の簡略化、開発期間の短縮化を目指し開発された製造技術です。
 ラッピング製剤は、熱可塑性高分子フィルムで圧縮した粉末を包み込むことで製造されます。その製法は従来のフィルムコーティングとは異なり、予め製造しておいたフィルムを使用するため、水などの溶媒を使用せず、水に不安定な薬物もフィルムコート化が可能となります。
 ラッピング製剤の製造装置は一般の打錠工程に該当する粉末成型工程から、ラップ用フィルムの切り出し、成型、ラッピング、仕上げまでをオールインワンでおこなう連続生産をコンセプトにしています。
 具体的には、あらかじめ製造しておいたフィルムをヒーターで加熱し、軟化した フィルムに錠剤形状の型を押し当て、真空引きすることでカップを成形するSTEP1(カップ成型工程)。
 打錠機で粉末を圧縮した後、カップを定位置(臼穴の真上)に搬送し錠剤を挿入するSTEP2(圧縮挿入工程)。
 圧縮粉末を挿入したカップを回転させながら、カップ側面からレーザーを照射し不要なフィルムをカットして取り除くSTEP3(カット工程1)。
 STEP3で得られた錠剤を型にして、STEP1と同様の方法でキャップを成形するSTEP4(キャップ成型工程)。
 STEP3と同様の方法で不要なフィルムをカットし、完成品に到るSTEP5(カット工程2)によって機器は構成されています。
 医薬品を製造するうえで最も肝心な錠剤の重量や硬度などのクオリティは実績のある打錠機の制御技術がそのまま流用できるのも本機の特色のひとつです。

DS-WT2機工程詳細

DS-WT機 各工程製品の状態

成形品サンプル

開発の成果と現在

 ラッピング製剤製造装置の実績として、
・単発打錠機を使用した自動試作機DS-WT
・ロータリー打錠機(36本立)を使用した自動連続製造装置DS-WT2
が開発され、実用化に向けた開発が進められています。
 ラッピング製剤は低成形性粉末のフィルムコート化が可能という特徴を活かし、FIH(First in Human)製剤への適用が可能と考えられます。また製法、フィルムの特性を活かすことで、開発期間を短くすることに貢献し、早期に患者さんへ医薬品を届けることが可能となります。
 製造工程においては、弊社連続定量混合システムCRA-RIS SYSTEMと組み合せることで、将来的には原料の秤量からコーティングまで全工程の完全連続生産を構成し、更なる生産性を向上、品質の安定化、人件費の削減、スペースの効率化の実現も見据えることが可能になってきます。
 成果として本技術の開発は2022年秋季の一般社団法人粉体工学会 技術賞を受賞致しました(対象者:第一三共㈱ 長池剛様 宮島誠様。弊社:技術センタ 藤井靖史)
 また本技術の詳細についてはPHARM TECH JAPAN 2025年1月号(Vol.41 No.01 執筆者 第一三共㈱:長池剛様 弊社:藤井靖史)にて発表されています。是非ご一読ください。
 本機の実生産対応にはまだ課題が多数ありますが、ユーザー様のイノベーション実現のために、今後も菊水製作所は全力を挙げて取り組みます。
特注仕様
全固体電池 篇 ラッピング製剤(製造装置) 篇